「新リース会計基準」の適用が迫り、いつから自社が対象になるのか、実務にどのような影響があるのか、情報収集を進めている経理・財務担当者の方も多いのではないでしょうか。この記事では、新リース会計基準の要点を、国際会計基準であるIFRS第16号との関係も踏まえながら、公認会計士が分かりやすく解説します。結論として、新基準の最大の変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースを含め、すべてのリースを原則として資産・負債計上(オンバランス化)することです。これにより、貸借対照表や損益計算書、ROAといった経営指標がどう変わるのか、また実務で押さえるべき例外規定や準備の進め方まで、網羅的に理解できます。
新リース会計基準とは 従来との違いをわかりやすく解説
新リース会計基準とは、企業会計基準委員会(ASBJ)が開発を進めている、リース取引に関する新しい会計処理のルールです。これまで日本の会計基準では、リース契約を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2種類に分類し、それぞれ異なる会計処理を行ってきました。しかし、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」との整合性を図るため、この考え方が大きく見直されることになります。
本章では、この新リース会計基準の根幹となる変更点、特に従来の会計処理と何がどう変わるのかを、専門用語をかみ砕きながら具体的に解説していきます。
新リース会計基準の適用はいつから?対象となる企業
現在公表されている公開草案「リースに関する会計基準(案)」によると、新リース会計基準の適用開始時期は、2026年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首からと提案されています。ただし、これはまだ確定事項ではなく、今後の正式決定を待つ必要があります。また、これより前の事業年度からの早期適用も認められる見込みです。
適用対象となるのは、主に上場企業や会社法上の大会社などです。一方で、中小企業の会計実務への影響を考慮し、中小企業会計指針などを適用する企業については、当面の間、従来の会計処理を継続することが認められる方向で検討が進められています。自社が適用の対象となるか、事前に確認しておくことが重要です。
最大の違いはすべてのリースを資産計上する「原則オンバランス」
新リース会計基準における最大の変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上する「オンバランス」が求められることです。
従来の会計基準では、リースの実態に応じて会計処理が異なりました。実質的に資産を購入したのと変わらない「ファイナンス・リース」は資産と負債を計上(オンバランス)していましたが、一般的な賃貸借契約とみなされる「オペレーティング・リース」(例:コピー機の短期レンタルなど)は、支払うリース料を費用として計上するだけで、B/Sには記載されませんでした(オフバランス)。
新基準の導入により、このオフバランス処理が認められなくなります。これにより、企業がリース契約によって抱えている実質的な負債が財務諸表に明確に表示され、投資家などが企業の財政状態をより正確に把握できるようになります。
| 従来の会計基準 | 新リース会計基準 | |
|---|---|---|
| ファイナンス・リース | オンバランス(資産・負債を計上) | 原則オンバランス (短期・少額の例外を除き、すべてのリースで「使用権資産」と「リース負債」を計上) |
| オペレーティング・リース | オフバランス(賃貸借処理) |
ファイナンスリースとオペレーティングリースの区分が廃止
前述の「原則オンバランス」化に伴い、新リース会計基準では、従来の「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」という契約の区分そのものが廃止されます。
これまでの実務では、リース契約を締結するたびに、その契約がファイナンス・リースに該当するかどうかを判定する必要がありました。例えば、「リース期間が経済的耐用年数のおおむね75%以上である」といった基準(リース期間基準)など、複雑な判定が求められ、経理担当者の負担となっていました。
新基準ではこの区分判定が不要になるため、その点では実務が簡素化されると言えます。しかしその一方で、これまで費用処理だけで済んでいたオペレーティング・リースも含め、社内に存在するほぼすべてのリース契約を網羅的に把握し、資産・負債計上のための情報を管理する必要が生じます。そのため、契約管理体制の見直しなど、新たな対応が求められることになります。
新リース会計基準が導入された背景とIFRS第16号との関係
今回の新リース会計基準の導入は、日本独自の動きではなく、会計基準の国際的な潮流に合わせたものです。なぜ今、リース会計のルールが大きく変わるのか、その背景にある「IFRS(国際財務報告基準)」との関係性や、従来の会計処理が抱えていた問題点について詳しく見ていきましょう。
国際的な会計基準IFRSとのコンバージェンス
新リース会計基準が導入される最大の理由は、国際的な会計基準であるIFRS(国際財務報告基準)とのコンバージェンス(収斂)です。近年、企業のグローバル化が進み、海外の投資家が日本の企業の財務諸表を見る機会が増えました。しかし、国ごとに会計基準が異なると、企業の業績や財政状態を正しく比較することが困難になります。
そこで、会計基準を国際的に統一しようという動きが活発化し、日本の会計基準もIFRSに近づける「コンバージェンス」が進められてきました。リース会計の分野では、国際会計基準審議会(IASB)が公表した「IFRS第16号『リース』」が国際標準となっています。日本の企業会計基準委員会(ASBJ)が開発を進めている新リース会計基準は、このIFRS第16号の内容をほぼ踏襲しており、国際的な整合性を図ることを目的としています。
これにより、海外の親会社や投資家に対する説明責任を果たしやすくなり、国内外の企業間での財務情報の比較可能性が高まるというメリットがあります。
オフバランス取引の問題点を解消し投資家保護を強化
もう一つの重要な背景は、従来のリース会計が抱えていた「オフバランス」の問題点を解消し、投資家保護を強化することです。
従来の日本の会計基準では、リース取引は「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」に分類されていました。このうち、オペレーティングリースは、賃貸借取引として扱われ、支払うリース料を費用として計上するだけで、貸借対照表(B/S)には資産も負債も計上されませんでした。これを「オフバランス取引」と呼びます。
このオフバランス処理には、以下のような問題点がありました。
- 隠れ負債の存在: 航空会社が航空機を、小売業が店舗をオペレーティングリースで借りている場合など、実質的には多額の設備投資をしているにもかかわらず、その将来の支払義務が負債としてB/Sに表示されない。
- 投資判断の誤謬: 投資家が企業のB/Sを見ただけでは、リース契約による将来の債務を把握できず、企業の財政状態を過大評価してしまうリスクがあった。
新リース会計基準では、原則としてすべてのリースを資産(使用権資産)と負債(リース負債)としてB/Sに計上する「オンバランス化」が求められます。これにより、企業の財政状態がより実態に近く表示され、財務諸表の透明性が向上します。投資家は、企業が抱えるリース関連の負債を正確に把握できるようになり、より適切な投資判断を下すことが可能になるのです。
| 項目 | 従来基準(オペレーティングリース) | 新リース会計基準 |
|---|---|---|
| 会計処理 | オフバランス(費用処理のみ) | オンバランス(資産・負債計上) |
| 貸借対照表(B/S)への影響 | 影響なし | 使用権資産とリース負債を計上 |
| 投資家からの見え方 | 将来の支払義務が見えにくく、負債が少なく見える | リースによる将来の支払義務が明確になり、財政状態の実態を把握しやすい |
このように、新リース会計基準は、国際的な要請に応えると同時に、財務報告の信頼性と透明性を高め、投資家がより適切な判断を下せる環境を整えることを目的として導入されるのです。
新リース会計基準が財務諸表に与える3つの影響
新リース会計基準の導入は、特にこれまでオペレーティング・リースを多用してきた企業の財務諸表に大きな変化をもたらします。会計処理の変更が、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、そして経営指標にどのような影響を与えるのか、3つの側面に分けて具体的に見ていきましょう。
貸借対照表(B/S)への影響 使用権資産とリース負債の計上
新リース会計基準が貸借対照表(B/S)に与える最も大きな影響は、これまでオフバランス(B/Sに計上されない)であったオペレーティング・リースが、原則としてオンバランス(B/Sに計上される)になることです。
具体的には、リース契約を開始する際に、借手はリース期間にわたってリース資産を使用する権利を「使用権資産」として資産サイドに計上します。同時に、将来支払うべきリース料総額の現在価値を「リース負債」として負債サイドに計上します。これにより、資産と負債が両建てで増加することになります。
| 従来の会計基準 | 新リース会計基準 | |
|---|---|---|
| 資産 | 計上なし | 「使用権資産」を計上 |
| 負債 | 計上なし | 「リース負債」を計上 |
| 総資産 | 変化なし | 増加する |
この変更により、企業の総資産が実態に合わせて大きく表示されるようになります。特に、店舗や航空機、大型設備などをオペレーティング・リースで調達している小売業、航空業、製造業などでは、B/Sが大きく膨らむ可能性があります。
損益計算書(P/L)への影響 減価償却費と支払利息
損益計算書(P/L)においても、費用の計上方法が大きく変わります。従来、オペレーティング・リースの支払額は「支払リース料」として、ほぼ定額で販売費及び一般管理費(販管費)などに計上されていました。
新リース会計基準では、この費用が2つに分解されます。B/Sに計上した「使用権資産」に対する「減価償却費」(営業費用)と、「リース負債」に対する「支払利息」(営業外費用)です。
| 費用項目 | 従来の会計基準 | 新リース会計基準 |
|---|---|---|
| 営業費用 | 支払リース料 | 減価償却費 |
| 営業外費用 | 計上なし | 支払利息 |
この変更には重要なポイントがあります。それは、費用の合計額はリース期間を通じて同じでも、その内訳とタイミングが変わる点です。支払利息はリース負債の残高に対して計算されるため、返済が進むリース期間の初期に多く、後半に少なくなるのが一般的です。一方で、減価償却費は定額法であれば期間中一定です。この結果、リース期間の初期は費用が大きく計上され、後半になるにつれて費用が減少する傾向があります。
また、支払リース料が営業費用である減価償却費と営業外費用である支払利息に分かれるため、営業利益の段階では、従来の会計基準よりも利益が大きく見える効果があります。これは、EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)を重視する企業評価にも影響を与える可能性があります。
経営指標への影響 ROAや自己資本比率はどう変わるか
B/SとP/Lが変化することで、それらを基に算出される経営指標も大きく変動します。企業の財務状況を分析する際には、この影響を正しく理解しておく必要があります。
主な経営指標への影響は以下の通りです。
| 経営指標 | 計算式 | 影響 | 理由 |
|---|---|---|---|
| ROA(総資産利益率) | 利益 ÷ 総資産 | 悪化(低下) | B/Sのオンバランス化により、分母である総資産が増加するため。 |
| 自己資本比率 | 自己資本 ÷ 総資産 | 悪化(低下) | 同じく、分母である総資産が増加するため。 |
| 負債比率 | 負債合計 ÷ 自己資本 | 悪化(上昇) | リース負債の計上により、分子である負債合計が増加するため。 |
| 流動比率 | 流動資産 ÷ 流動負債 | 悪化(低下) | 1年以内に返済期限が到来するリース負債が流動負債に計上されるため。 |
このように、多くの安全性や効率性を示す指標が、会計基準の変更によって見かけ上悪化する可能性があります。これらの指標は、金融機関が融資の際に用いる財務制限条項(コベナンツ)の基準となっている場合も少なくありません。そのため、自社の財務指標がどのように変動するのかを事前にシミュレーションし、必要に応じて金融機関や株主、投資家といったステークホルダーへ丁寧に説明することが極めて重要になります。
実務担当者が押さえるべき新リース会計基準の対応ポイント
新リース会計基準の導入は、経理・財務部門の実務に大きな影響を及ぼします。原則としてすべてのリースを資産・負債として計上する必要があるため、対象となる契約の洗い出しから会計処理、システム対応まで、準備すべき項目は多岐にわたります。しかし、実務上の負担を軽減するための例外規定も設けられています。ここでは、実務担当者が具体的に何をすべきか、対応のポイントを詳しく解説します。
例外的に資産計上しなくてよいリース契約
新リース会計基準では、すべてのリースを資産計上する「原則オンバランス」が採用されますが、実務上の重要性が乏しい特定のリース契約については、例外的に資産計上しない簡便的な会計処理が認められています。この例外規定を正しく理解し活用することで、企業の事務負担を大幅に軽減することが可能です。例外として認められているのは「短期リース」と「価値の低い少額リース」の2つです。
12ヶ月以内の短期リース
リース期間が契約開始日から12ヶ月以内であるリースは「短期リース」に該当し、資産計上の必要がありません。従来通り、支払ったリース料を費用として計上することができます。
例えば、以下のようなケースが短期リースに該当する可能性があります。
- イベントのために3ヶ月間だけレンタルする音響機材
- 繁忙期に6ヶ月間だけ追加で借りるコピー機
- プロジェクトのために10ヶ月間契約する仮設事務所
ただし、注意点として、契約期間は12ヶ月以内であっても、借手に有利な条件でリースを延長できるオプションが付いているなど、実質的なリース期間が12ヶ月を超えると判断される場合は、短期リースの対象外となる可能性があります。契約内容を詳細に確認することが重要です。
価値の低い少額リース
リース対象となっている資産そのものの価値が低いリースは「少額リース」として、資産計上しないことが認められています。この判断は、企業の規模にかかわらず、リースする資産が新品であった場合の価値(原資産の価値)に基づいて客観的に行われます。
先行して導入されているIFRS第16号では、新品で5,000米ドル以下が目安とされており、日本の新基準でも同様の考え方が採用されると見込まれています。具体的には、以下のような資産のリースが対象となります。
- ノートパソコンやタブレット端末
- 事務用の電話機やプリンター
- オフィス用のデスクや椅子などの什器備品
少額リースに該当する場合も、短期リースと同様に、支払リース料を費用計上する簡便な処理が可能です。複数の少額な資産をまとめてリース契約している場合でも、個々の資産単位で少額かどうかの判定を行います。
導入に向けた準備とスケジュールの立て方
新リース会計基準へのスムーズな移行には、計画的な準備が不可欠です。適用開始までに余裕をもって対応を進めるために、以下のステップで準備を進めることを推奨します。ここでは、一般的な準備プロセスとスケジュールの目安を提示します。
ステップ1:社内に存在するリース契約の網羅的な把握
まず最初に行うべきは、会社全体でどのようなリース契約が存在するのかを正確に把握することです。経理部門が管理している契約だけでなく、各事業部門や営業所が個別に契約している賃貸借契約などもすべて洗い出す必要があります。固定資産台帳に載っていない契約も多いため、全社的な調査が求められます。洗い出した契約は、契約内容(リース対象資産、リース期間、リース料、各種オプションなど)を一覧化した管理台帳を作成するところから始めましょう。
ステップ2:会計処理方針の決定
次に、洗い出したリース契約を一つひとつ精査し、新基準の原則的な会計処理を適用するのか、それとも前述の例外規定(短期リース・少額リース)を適用するのか、企業としての方針を決定します。特に少額リースの適用にあたっては、自社としてどのような資産を対象とするか、具体的な基準を設けておく必要があります。
ステップ3:リース資産・負債の算定と影響額の試算
原則処理の対象となるリース契約について、使用権資産とリース負債の金額を算定します。この計算には、リース料総額、リース期間、そしてリース料を現在価値に割り引くための「割引率」などの情報が必要です。契約書からこれらの情報を収集し、実際に計算作業を行います。この段階で、新基準適用による貸借対照表や損益計算書、経営指標への影響額を試算し、経営層や関係部署へ事前に報告しておくことが重要です。
ステップ4:業務フローの見直しとシステム対応
リース契約の件数が多い場合、Excelなどでの手作業による管理には限界があります。リース資産の計上から減価償却、利息計算、契約内容の変更管理までを一元的に行えるリース資産管理システムの導入や、既存の会計システムの改修を検討する必要があります。また、契約締結の段階で会計処理に必要な情報を確実に収集できるよう、契約管理に関する社内ルールや業務フローの見直しも並行して進めましょう。
以下に、導入に向けたスケジュールのモデルケースを示します。
| フェーズ | 期間(適用開始前) | 主なタスク |
|---|---|---|
| 調査・計画フェーズ | 約1年半~1年前 |
|
| 設計・準備フェーズ | 約1年前~半年前 |
|
| 導入・移行フェーズ | 約半年前~適用開始 |
|
上記のスケジュールはあくまで一例です。企業の規模やリース契約の数・複雑性に応じて、より早期に着手する必要があります。特に契約の網羅的な把握には想定以上の時間がかかることが多いため、早めにスタートすることが成功の鍵となります。
まとめ
本記事では、新リース会計基準の要点と実務上のポイントを解説しました。新基準の最大のポイントは、従来のファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分を廃止し、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表に計上する「オンバランス化」です。
この会計基準が導入された背景には、国際的な会計基準であるIFRS第16号とのコンバージェンスを進め、オフバランス取引によって見えにくくなっていた企業の財務実態を正確に開示し、投資家保護を強化する目的があります。
新基準の適用により、総資産と負債が同時に増加するため、ROA(総資産利益率)や自己資本比率などの経営指標が悪化する可能性があります。また、損益計算書では支払リース料が減価償却費と支払利息に置き換わるため、利益への影響も考慮しなければなりません。
ただし、12ヶ月以内の短期リースや少額リースといった例外規定も存在します。実務担当者は、自社がどのリース契約について資産計上が必要になるかを早期に把握し、システム対応を含めた準備を計画的に進めることが不可欠です。